G-FLEX Story その13・・・残されたカード

皆さん は覚えているでしょうか。かつて資金がない中での方法として、あるお店の暇な、もしくは営業時間外の時間を使ってそこで営業すると言うやり方を。
そう、以前僕が横浜駅の近辺を徹底的に調査して、サンエコーさんに提案を持ちかけた時の件です。そのときはうまく行かず、本命として考えていたyouと言う喫茶店 には話を持っていく気にもなれなかった時のことです。

今持っている資金の中で出来る事を考えてゆく中で、一番先に思い出したことがカフェyouでした。国民金融公庫の結果が出ているわけではないですが、まずはyouに足を運んでみました。今までお店に客として入ったこともなかったのです。

コーヒーを一杯注文しました。居心地はレトロで静かさもあ
ってとても良く、サンエコーと違い、内装もまとまっていて、きれいでそのままでもいい感じでした。たくさんの油絵とものすごい数のマンガが置かれていました。
今時こんな感じの喫茶店は珍しいと思いました。静かで、空間が広くて、まるで、70年代だか80年代初期の僕らが高校の頃たむろしていた喫茶店みたいです。僕はとても気に入りました。
その日は珈琲を飲み終えて、そのまま帰りました。

*

次に出向いたとき、僕は背広を着て、計画書をかばんに入れて訪れました。名刺「有限会社G-Flex代表取締役社長 矢田 剛」も持ちました(パソコンで自作)。

午後3時ころだったでしょうか、店内には意外とお客さんがいて、見た目50代くらいのマスターは忙しそうでした。細く痩せていて、鼻の下に髭を生やしていて、とてもそれらしい人です。アルバイトの女の子が一人いて、テーブルについた僕にオーダーを取りに来ました。

「マスター今忙しい?」

オーダーの前に僕は聞きました。ウェイトレスの女の子は、ちょっとマスターの方を振り返って、

「ええ、そうですね。この時間にしては結構お客さんは入ってるんで」と答えました。

僕はそのままオーダーしたアイスコーヒーをすすりながら機会をうかがっていました。アイスコーヒーを飲み干して、ちょっといらいらしだして、とりあえずマスターに話しかけようと思いました。1時間くらいは待ったと思います。カウンターの隅、横から覗くように、

「あの、すみません。今忙しいですか?ちょっとお時間を頂けたら・・・」

マスターからは4,5メートルあったでしょうか。やっと届くほどのかすれた声です。

「はい、忙しいです」

パフェみたいなものを作っているマスターはこちらを見る事もなく、あっさりと即座に返事がありました。僕が何の用があるのかの興味すらないみたいです。初めて話し掛けてくる人間には興味がないのでしょうか。
「あ、そうですか・・・」と答えガッカリ退散。

しかし、帰りの会計のときにマスターがレジに来たので、一応名刺だけは渡し、簡単な説明をしました。その名刺には「有限会社G-Flex代表取締役社長 矢田 剛」とあります。背広も着ています。
「はあ、」気の抜けた返事と共にマスターはちょっと眺めた後、ポケットに名刺をしまいました。

「あの、失礼ですが、ここのオーナーですか?」
僕の質問に、
「いいえ、オーナーはほとんどここに来ませんが」
と。ああ、この人はここを任されている店長なのだと思いながら、

「失礼ですが、お名前は?」

そう僕が聞くと、ええと、大森です。と答えました。

「あの、またお邪魔します」

そう言って僕は店を後にしました。以前のサンエコーでの失敗があっただけに慎重でした。

その14 手繰り寄せた糸へ