G-FLEX Story その14・・・手繰り寄せた糸

その次に行ったとき、やはりマスターとはあまり話ができませんでした。
帰りの会計時に、「どうでしょう?見て頂けましたか?」と聞くと、

「うーん、見ましたけど、正直難しいですね」

「ああ、やっぱり難しいですかぁ」

あり得る答えに対してガッカリと、しかし理解を持って答えました。

「大体、日曜日はこのビルの地下が閉まってしまうんですよ」
僕の要望には休みの日曜にお店を貸切にさせて欲しいと書いてあるのです。

「ああ、そうなんですか。それでは仕方がないですね」

僕はさらにガッカリしながらも、とにかく前につないで行くように話しをしました。

「そう言った仕方のないことは、それでしょうがないですから、構いません。無理のない形で対応して頂ければ。別に急いでいるわけではないですから、いろいろ、またご検討願います。それではまたお邪魔しますので」

「あ、いや、まあ・・・」

マスターが何となく遠まわしに断ろうとしているのを感じながら、僕はそそくさと逃げるように退散しました。

*

「一日15人くらいのお客さんを連れてくる積りなんですけど」

5回目にyouを訪れたとき、6時半くらいですか、お客さんがほとんど居なくなり、マスターと話す機会を持つことが出来ました。僕はいかに自分の計画がyouさんのプラスになるかを訴える積りでした。

「ええ?そんなに来られたら困りますよ」

これは意外な答えでした。
「夜は私ひとりだから、あまり忙しいのは困るんですよね。あまり向上心がないもので」
どうやらマスターは現状以上に忙しくなる事を好まないようでした。

「あ、じゃあ僕が手伝いますよ。どうせこっちは会計くらいしかやる事ないし。もしあれだったら、マスターは先に帰ってもらって僕があとの仕事をやってもいいですし」
僕は即座に何とか現実に持っていくため、そう答えました。

「いや、それもちょっとねえ・・・。」そう答えてから、マスターは、
「ああ、あの日曜に使いたいって件ね。月に一回くらいだったら大丈夫かも知れないよ」と言いました。

「え?本当ですか?」

「あの向かいの店、あそこが日曜に月一回手打ちうどんの講習会みたいなのやってるんだよね。その時だったら大丈夫かもよ。聞いてあげようか」

「あ、はい!是非お願いします。」

これはもしかするとここを使っていいと言う事なのだろうか。一縷の望みが繋がった気がしました。

*

その後、僕が横浜出身で、マスターも横浜出身なので、僕の高校やら大学の話で意外と共通点があったり、僕は音楽を作るのが好きだと話すと、マスターも実はギターを長年やっていて、音楽は好きだったり、その日は他にお客さんは結局来ないで閉店までずっと話をしていました。
マスターは唯一の休みの日曜日もパンを買いに東戸塚まで行ったりするので、店には来ているとの事でした。わざわざ東戸塚のパン屋の何とかってパンに決めているらしいのです。

「マスター、そんな休みなしで大変じゃないですか?もっと自分の時間を持って好きなことやればいいのに」

僕はそのために僕が役に立ちますよと、暗に含ませる積りで言いました。
マスターは少し上の方を見上げました。

「自分の時間ねぇ、でも、もうここにいる事自体が自分の時間なんだよね。家にいるよりずっと落ち着く。朝ここに来ることが生活になっちゃってるから。好きな音楽かけて、好きな絵を飾って、自分のためだけにやってるから全然売上が上がらない、しかも若い頃みたいに向上心もないからね」

マスターはちょっと苦笑をして、

「あ、そうだ、ダイヤモンド地下街に僕の知り合いがついこの前喫茶店出したんだよ。ほら、あそこの出口の近く」

「ああ、ほんとできたばっかりですよね。」
僕はその店を一応チェックしていました。

「あそこはどう?なんか夕方6時以降全然客が入らないって言ってたよ」

「え、でもあそこは最近の流行の回転速いタイプの喫茶店ですよね。んん、どうかなあ・・・」

そんな事を話していると閉店時間の8時になりました。明日の準備や片付けの邪魔をしても何なんで、僕は帰ることにしました。

帰りしな、さっき話のあった新しく出来た喫茶店を覗いてみました。すると今まで見ていたのですが、気づかなかった奥の方があって、思ったよりよさそうなのです。そして僕はそこで夕食をとる事にしました。

さすが新しいので、小奇麗な店内と、丁度スペースが二つに分かれていて、その奥の方を使わせてもらえたらかなり良い感じでした。コーヒーも210円。さらにその 喫茶店はジオスの通り道なのです。ジオスの生徒が寄っていく可能性大。僕は中でスパゲッティーを食べながら辺りを観察して「これはいいかも」と思い、出てから急いでyouに戻りました。
マスターはまだ洗い物などをしていて、僕が話をして欲しいとお願いすると、分かったよ。今日はちょっと無理だから明日しとくよ、と言いました。

「you」のマスターがAVroadと言う喫茶店を紹介してくれたのには、まずマスターがあまり僕の商売の話に乗り気ではなかったということがありました。面倒なことは増やしたくなかったのでしょう。マスターはもうお子さんも手離れしていて、今後の蓄えも多分十分で、あとは自分が好きな店を自分の好きなようにやって行きたいのだと思います。そこへ来て、訳の分からぬ英会話野郎が現れて、この場所を貸して欲しいと言い出した訳ですからかなり無理です。

そして気が進まぬ代わりにマスターの薦めてくれたAVroadは悪くないと思い、話をして下さいとお願いしました。今考えると、よくまあ数回足を運んだだけの人間にそこまでしてくれたと思います。
ところが結果「丁重にお断りをして下さい」と言われたそうです。
どうもAVroadのオーナーは他の策があるらしく、確かにあの場所ならおそらく僕らが来るよりもっとお客さんをGetできるのだと思います。
ガッカリした僕。しかし、その断りの報告に続けてマスターは言いました。

「しょうがないから、うちでやってもいいよ」

(えっ?)と驚いた顔の僕と目が合うと、
「でも、次のちゃんとした場所が見つかるまでだよ」
と続けました。

マスターは僕がやっている事に理解を示してくれたと同時に興味を示してくれたのだと思います。確か「面白そうだから」か「頑張ってるみたいだから」と言う感じの事で協力してくれることにしてくれた様なのです。たった、4,5回話した人間に対してここまでしてくれるとは。

「あ、ありがとうございますぅうう。。。くぅ(涙;)」

と言う感じで正にお代官様にゆるして頂いた気分でした。
その様に、最後の砦で何とか僕のwishが実現することになったのです。

*

 僕は若い頃、情熱とか人間関係とかを少しあざ笑っていたと言うか、もっと合理的なものが大切だと思っていました。情に流されると、判断を見誤ると言う視点でした。
しかし、実際社会に出てみると、それらがいかに大切な事かを実感させられました。また、今、本当に自分の店をやっている人はお金儲けよりも大切な事があるのだと言う事を再確認させられました。結局人間は感情的な生き物で、お金の為ではなく、自分の満足や気持ちによって物事が判断される事はどうやら間違ってはいないし、結果はやはり正しいのです。

結局僕にとっても、AVroadよりyouの方が落ち着けるし、良かったんじゃないかと思いました。

その15 大繁盛へ