5.またしてもA社

ある日一本の電話が鳴りました。以前開発の一部を依頼したI社の社長(Sさん)からでした。

RVSをとても評価してくれていたその社長は学校に強いパイプのある上場企業U社を紹介してくれ、デモをしたがまだ開発段階と言う事ですぐに採用とはなりませんでしたが、それがきっかけでSさんとは一緒に飲みに行ったり、息子を私のスクールに連れて来たりしてそれなりの関係を築いている感じでした。

それから1年以上経っていましたが、そのSさんから電話がありました。そのデモをしたU社から、今度はその会社の社長が見たいと言う連絡だったのです。これはとても大きなチャンスだと思いました。

会議室に通され現れたのは、前回デモを見てもらった人(社長になっていた)ともう一人は眼鏡を掛けた貫禄のある年配者で、名刺にはシニアアドバイザーとあります。

(販売担当って言ってたけど…)少し頭をよぎりました。

そしてU社の社長がその方の紹介をしました。なんと、昔協業のオファーに返事がなくアイデアを一部盗まれた(証拠はないですが)A社の元副社長と言う事でした。いわゆる天下りでしょう。

その時は多少の違和感はありましたが、ここでプレゼン・デモを止める事は出来ません。A社は音声認識を利用したシステムを発売しましたが、様々な問題があった様で、どんな音声認識エンジンを使って、どの様にシステムを構築しているのかを根掘り葉掘り聞いてきました。

帰りには少し変な空気になりました。

その後私はその話を知り合いの中小企業診断士の方に話しました。知り合いの紹介だったので、NDA(秘密保守契約)を結んでいないままのミーティングでした、と言いました。 

「それは確信犯ですね」

その診断士の方に言われた時初めて、自分が単に情報収集のために利用された事に気付きました。あのA社からまたしても同じことをされたのです。

頭に来た私はそのA社元副社長を含め、関係者全員に、

「今回の会議の内容についてはくれぐれもA社に漏れる事の無いようにご配慮お願い致します。」

とのメールを送りました。

それを受けたSさんは慌てて私に電話して来ました。

「あれはやり過ぎですよ」

何がやり過ぎだよ、あんたの事信用してNDA結ばなかったのに。あれは単なる情報を盗むための会議だったんだろ。同業者が出席するなんてはっきり言って騙された気分だよ!

もっともっと罵倒したと思います。

イエス・キリストの「他人をゆるしなさい」と言う言葉もその時は理解不可能でした。

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